成年後見制度の「後見人」は、親族がなれますか?知っておきたい選任の基準と心構え

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「認知症が進んでしまった親の預金が下ろせなくなった」

「不動産を売りたいけれど、父の判断能力がなくて困っている」

そんな切実な悩みに直面したとき、解決策として浮上するのが「成年後見制度(せいねんこうけんせいど)」です。

しかし、いざ検討を始めると、多くの方が真っ先に抱く不安があります。

「後見人には、私(子ども)や親族がなれるのかしら?」

「知らない専門家が入ってくると、家族の絆がかき乱されない?」

大切なご家族のお金や暮らしを守るための制度だからこそ、見知らぬ誰かに任せることへの抵抗感は当然のものです。

親族が後見人になることは可能ですが、決めるのは「裁判所」です

まず、最も気になる結論からお伝えします。 「親族が後見人になることは、法律上可能です。」

しかし、現在の運用では、「親族が候補者として届け出ても、必ずしも選ばれるわけではない」という現実があります。

なぜ「親族」が選ばれないケースがあるの?

裁判所が専門家を選ぶ主な理由には、以下のようなものがあります。

1. 財産管理の「透明性」を確保するため

家族の間では、どうしても「親のお金なんだから、多少は柔軟に使ってもいいだろう」という甘えが生じがちです。

しかし、後見制度においては、1円単位での厳密な管理が求められます。親族間での使い込みや、悪意のない「管理ミス」を防ぐために、あえて第三者を入れる判断がなされます。

2. 親族間でのトラブル(争い)を避けるため

「長男が後見人になるのは反対」「妹が勝手にお金を使わないか心配」といった、親族内での意見の食い違いがある場合、裁判所は中立な専門家を選びます。一度もめたまま後見が始まると、ご本人の介護どころではなくなってしまうからです。

3. 手続きが非常に煩雑であるため

後見人になると、裁判所に対して定期的な「収支報告」を行わなければなりません。これは通帳のコピーを提出し、何にいくら使ったかをすべて説明する作業です。働き盛りの世代や、ご自身も高齢のご親族にとって、この事務負担は想像以上に重く、専門家に任せたほうが結果的に家族の負担が減るという側面もあります。

親族が後見人に選ばれやすいケースと、難しいケース

「それでも、やっぱり私がやりたい」という方のために、判断の目安を整理しました。

親族が選ばれやすい「プラス」の条件

  • 親族間に争いが一切なく、全員が「この人なら安心」と同意している

  • ご本人の財産がそれほど多額ではなく、管理が複雑ではない(例:預貯金が数百万程度で不動産がないなど)

  • これまでも長年、その親族が献身的に身の回りの世話をしてきた実績がある

  • 候補者となる親族に、十分な事務処理能力があり、健康状態も良好である

専門家が選ばれやすい「マイナス」の条件

  • 預貯金が数千万円以上ある、または有価証券や賃貸物件などの複雑な財産がある

  • 親族の中に、一人でも後見人就任に反対している人がいる

  • ご本人と候補者の間に、過去にお金の貸し借りがあった

  • 遺産分割協議など、親族間で利害が対立する具体的な手続きを控えている

  • 候補者がご本人から「生前贈与」を受けていたなど、客観的に見て不透明な部分がある

成年後見人になったら、具体的に何をするの?

「後見人=お世話係(介護担当)」と思われがちですが、実は少し違います。

後見人の仕事は、大きく分けて「財産管理」「身上保護(しんじょうほご)」の2つです。

財産管理:お財布の番人

  • 通帳や実印、権利証などの保管

  • 年金の受領確認

  • 公共料金や施設費用の支払い

  • 確定申告や、必要な場合の不動産売却の手続き

ここで大切なのは、「ご本人の財産は、あくまでご本人のためだけに使う」という原則です。

孫への入学祝いや、家族での外食代に親のお金を使うことは、原則として認められません。

身上保護:生活のコーディネート

  • 介護保険の契約や、施設の入所契約

  • 病院への入院手続き

  • 適切な医療や介護が受けられているかの見守り

直接的な介護は、後見人の仕事ではありません。

それよりも「どんな介護サービスを受けさせるか」「どこの施設が本人に合っているか」を決定し、契約する法律的なサポートがメインとなります。

成年後見制度を利用するための5つのステップ

制度をスムーズに開始するための一般的な流れをご紹介します。

  1. 主治医に診断書を依頼する まずは「後見が必要な状態かどうか」を医師に判断してもらいます。家庭裁判所専用の診断書フォーマットがあります。

  2. 申し立て書類の準備 ご本人の戸籍謄本、住民票、財産目録(通帳のコピーや不動産の証明書など)を収集します。

  3. 家庭裁判所へ申し立て ご本人の住所地を受け持つ家庭裁判所に書類を提出します。この際、親族を後見人候補者として記載できます。

  4. 裁判所による調査・面談 裁判所の職員(調査官)が、ご本人や候補者と面談を行います。「なぜ後見が必要なのか」「候補者に適性があるか」を確認します。

  5. 審判(選任) 裁判所が最も適任だと判断した人を後見人に選びます。ここで親族が選ばれるか、専門家が選ばれるかが決まります。

「任意後見」という、もう一つの選択肢をご存知ですか?

ここまでお話ししたのは、すでに判断能力が低下した後に利用する「法定後見(ほうていこうけん)」という制度です。

この制度では、後見人を選ぶのは裁判所です。

しかし、もし現在、ご本人の判断能力がまだしっかりされているのであれば、「任意後見(にんいこうけん)」という選択肢があります。

「任意後見」なら、ご本人が元気なうちに、「将来、もし判断能力が落ちたら、この人に後見人になってほしい」と、自分で選んでおくことができます。

「信頼できる娘に、最後まで任せたい」 「馴染みの司法書士さんに、財産管理をお願いしたい」

こうした願いを、公正証書という公的な書類に残しておくのです。これであれば、裁判所が勝手に誰かを選ぶことはなく、ご本人の希望が最大限に尊重されます。

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