「遺言書を一生懸命書いたけれど、これだけで本当に大丈夫かしら?」
「私が亡くなった後、実際に銀行の手続きや不動産の名義変更をするのは誰なの?」
遺言書を作成しようと考えている方、あるいは作成を終えた方にとって、次に気になるのは「その内容がどうやって実現されるのか」という部分ではないでしょうか。
せっかく書いた遺言書も、その通りに実行されなければ意味がありません。
そこで重要になるのが「遺言執行者(いごんしっこうしゃ)」という存在です。
この記事では、遺言執行者がどんな役割を担い、なぜ指定しておく必要があるのか、そして「誰にお願いするのがベストなのか」を、司法書士の視点から解説します。
遺言執行者とは?一言でいうと「遺言の実現担当者」です
遺言執行者とは、ひとことで言えば「遺言書の内容を具体的に形にするための、法律上の代表者」のことです。
遺言書には「どの財産を誰に渡すか」というあなたの意思が書かれています。
しかし、遺言者が亡くなった後、その紙(遺言書)が勝手に銀行口座を解約したり、不動産の名義を書き換えたりしてくれるわけではありません。
実際に銀行の窓口へ行き、法務局で手続きをし、時には相続人に「遺言書の内容」を説明して回る……。
こうした実務を一手に引き受けるのが、遺言執行者の役割なのです。
遺言執行者が「いない」とどうなる? 相続手続きの現実
「遺言執行者をわざわざ決めなくても、家族がやってくれるのでは?」と思われるかもしれません。
確かに、遺言執行者がいなくても相続手続きは可能です。しかし、そこにはいくつかの高いハードルが存在します。
全員の「署名と実印」が必要になる場面も
例えば、遺言執行者がいない状態で銀行口座の解約をしようとすると、銀行側から「相続人全員の同意書(署名と実印)」や「全員の印鑑証明書」を求められることが少なくありません。
もし、相続人の中に一人でも手続きに非協力的な人がいたり、遠方に住んでいて連絡が取りにくかったりすると、そこで手続きがストップしてしまいます。
手続きをする人の負担が重すぎる
遺言書に基づいて、預貯金を解約し、不動産を登記し、有価証券を売却し、税金を納める……。
これらすべての作業を、悲しみの中にいるご遺族が、家事や仕事の合間を縫って行うのは想像以上に大変なことです。
遺言執行者をあらかじめ決めておけば、その人が単独で(他の相続人の同意なしに)手続きを進められるようになるため、ご家族の負担を劇的に減らすことができるのです。
遺言執行者が行う「具体的な仕事」リスト
遺言執行者の仕事は、非常に多岐にわたります。代表的なものを挙げてみましょう。
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就任の通知: 「私が遺言執行者に就任しました」ということを、相続人全員に通知します。
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財産目録の作成: 亡くなった方の財産を改めて調査し、一覧表にして相続人に開示します。
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預貯金の解約・払戻し: 銀行等の金融機関で手続きを行い、遺言の通りに分配します。
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不動産の名義変更(相続登記): 法務局で不動産の名義を書き換える手続きを行います。
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株式や投資信託の名義変更・売却: 証券会社等での手続きを代行します。
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遺贈の履行: 相続人以外の人(友人や団体など)に財産を渡す場合、その引き渡しを行います。
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完了報告: すべての手続きが終わったことを相続人に報告します。
これら一つひとつに書類の準備や役所・金融機関とのやり取りが必要です。こうして並べてみると、非常に責任の重い仕事であることがわかりますね。
誰がなれるの? 遺言執行者の「適任者」を考える
法律上、未成年者と破産者以外であれば、基本的には誰でも遺言執行者になることができます。 つまり、ご家族やご親族を指定することも可能です。
しかし、実際に「誰にお願いするか」は非常に重要な選択です。主な候補となる2つのパターンを比較してみましょう。
パターンA:家族や親族の中から選ぶ(長男や配偶者など)
【メリット】
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信頼関係があるため、安心して任せられる。
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専門家への報酬がかからない(または少額で済む)。
【デメリット・注意点】
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法律や実務の知識がないため、手続きに時間がかかる。
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他の相続人から「本当に公平にやっているのか?」と疑念を持たれるリスクがある。
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手続きの重圧で、本人が心身ともに疲弊してしまうことがある。
パターンB:専門家(司法書士・弁護士など)を選ぶ
【メリット】
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第三者の立場で公平・中立に手続きを進めるため、親族間のトラブルを防げる。
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法律のプロなので、複雑な不動産登記や銀行手続きもスムーズで確実。
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遺言者(あなた)の意思を、客観的に粘り強く実現してくれる。
【デメリット・注意点】
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遺言執行報酬(費用)が発生する。
遺言執行者は「どうやって決める」のが正しい?
遺言執行者を決めるには、主に3つの方法があります。
① 遺言書の中で指定する(最もおすすめ)
遺言書の中に「遺言執行者として、〇〇(住所・氏名)を指定する」と一筆書いておく方法です。これが最も確実で、死後すぐに手続きを開始できます。
② 遺言書の中で「誰かに選んでもらう」よう指定する
「遺言執行者の指定を、妻〇〇に委託する」という書き方です。妻が信頼できる専門家を後から選ぶことができます。
③ 家庭裁判所に選任してもらう
遺言書に指定がなかった場合や、指定されていた人が先に亡くなってしまった場合、相続人が家庭裁判所に申し立てて選んでもらいます。
ただし、これには数ヶ月の時間がかかり、手続きも煩雑です。





