「親が多額の借金を残して亡くなった」
「遠方の実家の土地を誰も引き継ぎたくない」……。
そんなとき、真っ先に頭に浮かぶのが「相続放棄」という選択肢ではないでしょうか。
しかし、もし親族の「全員」が相続放棄をしてしまったら、その遺産や借金はどうなってしまうのでしょうか?
「自分が放棄すれば、次の親族に迷惑がかかるのでは?」
「誰もいなくなったら、放置された実家はどうなるの?」といった不安を感じる方は少なくありません。
この記事では、全員が相続放棄をした後の流れや、「不動産・土地」の取り扱いについて解説します。
相続放棄を「全員」がすると、遺産はどうなるのでしょうか?
法定相続人の全員が相続放棄をすると、「相続人が一人もいない状態」になります。
この場合、亡くなった方(被相続人)の財産は最終的に「国庫(国のもの)」に帰属することになります。
ですが、全員が書類を出した瞬間にパッと消えてなくなるわけではありません。そこには、法律に基づいた「整理のステップ」が必要になります。
「誰もいなくなった」その後のシナリオ
相続人全員が放棄を完了すると、その遺産を管理・処分する人がいなくなってしまいます。
そのため、債権者(お金を貸していた人)や特別縁故者(身の回りのお世話をしていた人など)がいる場合は、家庭裁判所に「相続財産清算人」を選んでもらうよう申し立てを行い、その清算人が財産を整理していくことになります。
なぜ「全員」放棄という事態が起こるのか
多くの場合、以下の2つのケースで全員放棄が検討されます。
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借金などのマイナスの財産が多い: 預貯金よりも負債が明らかに多い場合。
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管理できない不動産がある: 遠方の原野や、老朽化した空き家など、維持費ばかりかかる負債(負動産)を避けたい場合。
まずは、「自分が放棄したら終わり」ではなく、親族全体のバトンがどう動くのかを理解することが大切です。
相続放棄には「順番」がある?親族が次々と放棄する流れ
相続放棄を考える際に最も注意しなければならないのが、「相続権の移動」です。
あなたが放棄をすると、相続権は「最初からいなかったもの」として、次の順位の人へ自動的に移ってしまいます。
相続人の順位をおさらいしましょう
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第1順位: 子(子が亡くなっていれば孫)
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第2順位: 直系尊属(父母や祖父母)
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第3順位: 兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっていれば甥・姪) ※配偶者は常に相続人となります。
例えば、亡くなった方に子(第1順位)がいる場合、子が全員放棄をすると、次は亡くなった方の親(第2順位)が相続人になります。
親も放棄すれば、次は兄弟姉妹(第3順位)へ……というように、バトンが回っていくのです。
親族トラブルを防ぐために
「全員で放棄しよう」と事前に話し合えていればスムーズですが、内緒で自分だけが放棄してしまうと、後順位の親族にある日突然「借金の督促状」が届き、大きなトラブルに発展することがあります。
「自分が放棄の手続きをしたら、次の順位の方に一言伝えてあげる」という配慮が、何よりの解決策となります。
全員が相続放棄をするための具体的な手続きステップ
相続放棄の手続きは、ただ「いりません」と宣言するだけでは認められません。
家庭裁判所に対し、正式な申し立てを行う必要があります。
ステップ1:必要書類の収集(戸籍謄本など)
まずは、亡くなった方との関係を証明する書類を集めます。
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亡くなった方の住民票除票(または戸籍附票)
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放棄する方の戸籍謄本
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亡くなった方の死亡の記載がある戸籍謄本
全員で放棄する場合、同じ書類を何通も取るのは大変ですので、親族間で協力して集めるのが効率的です。
ステップ2:相続放棄申述書の作成
家庭裁判所に提出する申込書を記入します。
「なぜ放棄するのか」という理由を書く欄がありますが、「資産より負債が多いため」「生活が安定しており、引き継ぐ意思がないため」など、ありのままを記載すれば大丈夫です。
ステップ3:家庭裁判所への申し立て
亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に書類を提出します。郵送でも受け付けてもらえます。
ステップ4:裁判所からの「照会書」に回答
申し立てから1〜2週間ほどで、裁判所から確認の手紙(照会書)が届きます。
「自分の意思で放棄しますか?」「亡くなったことをいつ知りましたか?」といった簡単な質問ですので、正直に回答して返送しましょう。
ステップ5:相続放棄申述受理通知書の受け取り
無事に受理されると、裁判所から「受理通知書」が届きます。これが「私はもう相続人ではありません」という証明書になります。
「3ヶ月」という期限の壁をどう乗り越える?
相続放棄には、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」という非常に短い期限があります。これを熟慮期間と呼びます。
もし3ヶ月を過ぎてしまったら?
「親戚と連絡が取れなかった」「全員の意向をまとめるのに時間がかかった」という理由で、3ヶ月を過ぎそうになることがあります。
その場合は、事前に家庭裁判所へ「期間伸長の申立て」を行うことで、期限を伸ばしてもらうことが可能です。
全員が放棄を検討しているなら、早めのスタートを
一人ひとりがバラバラに手続きをするよりも、第1順位の人が終わったらすぐに第2順位の人が動けるよう、スケジュールを組んでおくことが「全員放棄」を確実に成功させるコツです。
【重要】不動産や土地がある場合の「管理責任」にご注意ください
ここが、多くの方が誤解されている最も重要なポイントです。
「相続放棄をすれば、実家の管理もしなくていい。あとは国が勝手にやってくれる」と思っていませんか?
実は、2023年(令和5年)の民法改正により、管理責任のルールが明確になりました。
相続放棄後も残る「保存責任」とは?
たとえ相続放棄が受理されても、「その財産を現に占有している(実際に管理している)」場合には、次の適切な管理者が決まるまで、その財産を保存しなければならないという義務が残ります。
亡くなった一人暮らしの母の家に、あなたが住んでいた、あるいは鍵を預かって頻繁に掃除に行っていたような場合。
あなたが相続放棄をしても、他に管理する人がいないなら、家の屋根が落ちて隣家に迷惑をかけないよう、あるいは放火されないよう、最低限の注意を払って管理し続けなければなりません。
土地・建物が「放置できない」リスク
「全員が放棄したから、あとは知らない」と放置し、空き家が倒壊して通行人に怪我をさせてしまった場合、放棄をした元相続人が損害賠償を請求されるリスクがゼロではありません。
この責任を完全に手放すには、家庭裁判所に「相続財産清算人」を選任してもらう必要があります。
相続財産清算人の選任と、そのコストについて
「全員放棄した後の不動産を、法的にきちんと国に引き渡したい」 そう考えた時に必要になるのが、相続財産清算人の選任です。
相続財産清算人とは何をする人?
弁護士や司法書士などが選ばれることが多く、亡くなった方の代わりに不動産を売却して現金化し、借金を返し、余った分を国庫に納めるという作業を代行してくれる専門家です。
選任にかかる費用(予納金)の問題
ここが一番の悩みどころです。相続財産清算人を立てるには、裁判所に「予納金」を納める必要があります。
不動産の価値が低く、清算人の報酬が財産から出せないと判断された場合、申し立てる側が数十万円(場合によっては50万円〜100万円程度)を負担しなければならないケースが多いのです。
「借金から逃れるために放棄したのに、管理責任から逃れるために高いお金を払うのは……」と躊躇されるのは当然のことです。
不動産の放置を防ぐ「相続土地国庫帰属制度」は使える?
最近始まった新しい制度として「相続土地国庫帰属制度」があります。
「いらない土地を国に引き取ってもらえるなら、相続放棄しなくていいのでは?」と考える方もいらっしゃいますが、この制度は「相続によって土地を取得した人」が使える制度です。
つまり、相続放棄をしてしまった人はこの制度を使えません。
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相続放棄: そもそも相続人ではなくなる(すべての財産を手放す)
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国庫帰属制度: 相続人として土地を引き継いだ上で、その土地だけを国に返す(審査や負担金が必要)
どちらの道があなたにとって、そしてご家族にとって負担が少ないか、慎重に見極める必要があります。
全員が相続放棄をする前に「これだけはやってはいけない」こと
相続放棄には「これをやったら放棄できなくなる」という禁止事項があります。これを「単純承認」といいます。
1. 亡くなった方の預貯金を使ってしまう
「葬儀費用なら大丈夫」と言われることもありますが、高額すぎる葬儀や、亡くなった方の財布から勝手にお金を出して自分のために使う行為は、相続を認めたとみなされる恐れがあります。
2. 遺品整理で高価なものを売ってしまう
「片付けのついでに、貴金属や骨董品をリサイクルショップに売った」という行為も、財産の処分にあたります。
全員で放棄を検討しているなら、受理されるまでは勝手に物を動かさない、売らないのが鉄則です。
3. 未払いの請求書を亡くなった方のお金で支払う
善意であっても、亡くなった方の財産を動かすことは避けましょう。自分のポケットマネーから立て替えて支払う分には問題ありませんが、領収書は必ず保管しておいてください。





