「亡くなった父が、すべての財産を特定の人に譲るという遺言を残していた」
「本来もらえるはずの遺産が全くもらえず、どうしていいか分からない」
大切なご家族を亡くされたばかりの悲しみの中で、こうした不公平な遺言が見つかると、不安を感じてしまうのは当然のことです。
そんなとき、残された家族が最低限の遺産を受け取れる権利を「遺留分(いりゅうぶん)」と呼びます。
そして、その権利を取り戻すための手続きが「遺留分侵害額請求(いりゅうぶんしんがいがくせいきゅう)」です。
しかし、この権利には「期限(時効)」があることをご存知でしょうか?
「落ち着いてから考えよう」と後回しにしているうちに、法律上の期限が過ぎてしまい、せっかくの権利が消えてしまうという悲しいケースは少なくありません。
この記事では、遺留分侵害額請求の期限について、解説します。
遺留分侵害額請求の期限(時効)はいつまで?
遺留分侵害額請求には、大きく分けて2つの期限があります。
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「時効(消滅時効)」:相続が始まったこと、および遺留分が侵害されていることを知った時から1年間
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「除斥期間(じょせききかん)」:相続が始まった時から10年間(何も知らなくても10年で消滅)
「1年」のカウントダウンが始まるタイミングとは?
「1年以内に請求しなければならない」と言っても、具体的にいつから数え始めるのでしょうか。
実は、単に「亡くなった日」から1年ではありません。
法律では、「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時」から1年とされています。
以下の2つを両方とも知った時です。
1. お亡くなりになったことを知った日
ご家族が亡くなり、相続が始まった事実を知ったタイミングです。
2. 自分の遺留分が侵害されていることを知った日
「遺言書の内容を知り、自分の取り分がゼロ、あるいは極端に少ないと分かった日」や「生前に多額の贈与が行われていたことを知った日」がこれにあたります。
例えば、父が1月1日に亡くなり、そのことを当日に知ったとします。
しかし、遺言書の存在を知ったのが3月1日だった場合、1年のカウントダウンは3月1日からスタートします。
ただし、「知っていた・知らなかった」という水掛け論を防ぐためにも、遺言書の存在を知ったのであれば、できるだけ早く動くことが大切です。
もう一つの期限「10年」のルール(除斥期間)
もし、遺言書があることを全く知らずに月日が流れてしまった場合はどうなるのでしょうか。
ここで登場するのが「10年」という期限です。
たとえ遺言書の存在を知らなかったとしても、お亡くなりになった(相続が始まった)時から10年が経過すると、遺留分を請求する権利は自動的に消滅します。
これを専門用語で「除斥期間(じょせききかん)」と呼びます。
1年の時効とは異なり、こちらは「知っているかどうか」に関係なく、時間が経てば権利がなくなってしまうという厳しいルールです。
期限を止めるためにすべきこと(遺留分侵害額の意思表示)
「期限が迫っているけれど、まだ話し合いがまとまっていない」 「相手が話し合いに応じてくれない」
そんなときでも、期限を止める方法があります。
それは、相手に対して「遺留分を請求します」という意思を表示することです。
専門的な手続きをすべて完了させる必要はありません。
まずは「請求する」という意思を伝えるだけで、1年の時効を止める(完成を猶予させる)ことができます。
内容証明郵便を活用しましょう
意思表示は口頭でも法律上は有効ですが、後になって「言った」「言わない」のトラブルになるのが目に見えています。
そのため、必ず「内容証明郵便(配達証明付き)」という方法で行います。
内容証明郵便を使えば、「いつ、誰が、誰に、どのような内容の手紙を送ったか」を郵便局が公的に証明してくれます。
これが、期限内に請求を行ったという証拠になります。
遺留分侵害額請求の具体的な流れ
期限を意識しながら、実際にどのように手続きを進めていくのか、その流れを確認しておきましょう。
ステップ1:相続人と財産の調査
まずは「誰が相続人か」を確定させるために戸籍謄本を集め、同時に「どのような財産がいくらあるのか」を正確に調べます。
この調査を疎かにすると、いくら請求できるのかが計算できません。
ステップ2:遺留分の計算
財産の総額に対して、自分が法律上保障されている割合(遺留分)を掛け合わせ、不足している金額を算出します。
ステップ3:内容証明郵便の送付
前述の通り、期限内に内容証明郵便を送ります。これにより時効をストップさせます。
ステップ4:話し合い(協議)
相手方と「いつまでに、いくら支払ってもらうか」を話し合います。感情的になりやすい場面ですので、第三者を介することも検討しましょう。
ステップ5:合意書の作成
話し合いがまとまったら、必ず書面に残します。将来の未払いを防ぐために「公正証書」にしておくとより安心です。
ステップ6:調停・訴訟
話し合いで決着がつかない場合は、家庭裁判所での「調停」や、裁判所での「訴訟」へと進むことになります。
遺留分を計算するための基礎知識
遺留分の割合は、誰が相続人になるかによって決まっています。
遺留分がある人(遺留分権利者)
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配偶者(夫や妻)
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お子さん(代襲相続人の孫も含みます)
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親(直系尊属)
※兄弟姉妹には遺留分がありません。
例えば、亡くなった方に子供がおらず、遺言で「全財産を愛する妻に譲る」と書かれていた場合、亡くなった方の兄弟は遺留分を請求することはできません。
遺留分の割合
原則として、亡くなった方の財産の「2分の1」が遺留分全体の枠となります。これを法定相続分で分け合います。
※親のみが相続人の場合は、全体の3分の1となります
よくあるトラブル:期限を過ぎてしまったら?
「1年を1日でも過ぎてしまったら、もう絶対に無理ですか?」 というご質問をいただくことがあります。
相手が「時効だから払わない」と主張(時効の援用)した場合、取り戻すことは極めて困難になります。
逆に言えば、期限が過ぎていても、相手が自発的に支払いに応じてくれるのであれば受け取ることができます。
しかし、遺留分のトラブルが発生している状況で、相手が好意的に支払ってくれるケースは稀です。や
はり「1年以内」という期限を守ることが、自分を守る最大の防衛策となります。
注意点:生前贈与も遺留分の対象になる
「遺言書には何も書いてなかったけれど、生前に兄だけが家を買う資金をもらっていた」
このようなケースも、遺留分侵害額請求の対象になります。
以前の法律では、生前贈与の時期に制限がありませんでしたが、現在は「相続開始前10年間」に行われた特別受益(結婚資金や住宅購入資金など)に限定されるようになりました(相続人以外への贈与は原則1年間)。
「過去の贈与だから関係ない」と思わず、まずはどのような財産の動きがあったかを確認することが大切です。





