「東京で生活している私にとって、田舎の土地は重荷でしかない……」
「管理もできないし、固定資産税だけ払い続けるのは嫌。でも、預金は引き継ぎたい。いらない土地だけを『相続放棄』することはできるの?」
遠く離れた故郷にある、使い道のない山林や古い実家。
これらは今、「負動産(ふどうさん)」として、多くの人を悩ませています。
残念ながら、今の日本の法律では「いらない土地だけを選んで相続放棄すること」はできません。
「えっ、じゃあ全部諦めるしかないの?」と絶望しないでください。
実は、令和5年からスタートした新しい制度を含め、土地を手放すための別の解決策がいくつか存在します。
なぜ「いらない土地だけ」の相続放棄はできないの?
相続が起きたとき、私たちは「亡くなった人の財産をどうするか」を決めなければなりません。
そもそも「相続放棄」とはどういう仕組み?
相続放棄とは、最初から「私は相続人ではありません」という立場になる手続きです。
家庭裁判所に申し立てを行うことで、プラスの財産(現金、預金、家など)も、マイナスの財産(借金、未払金など)も、すべてを一切合切引き継がないことになります。
「いいとこ取り」ができない理由
法律が「一部だけの放棄」を認めていないのは、相続人が自分の都合のいい財産(お金)だけを受け取り、負担の大きいもの(借金や売れない土地)を国や他人に押し付けることを防ぐためです。
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全部相続する(単純承認)
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全部いらない(相続放棄)
この二択が基本です。そのため、「預金1,000万円はもらうけれど、田舎の原野はいらない」という選択肢は、通常の相続放棄では選べないのです。
実家や田舎の土地が「負動産」になってしまう3つのリスク
管理できない土地を持ち続けることには、目に見えない大きなリスクが隠れています。
① 固定資産税と管理費の負担
土地を持ち続けている限り、毎年「固定資産税」がかかります。
たとえ数千円、数万円であっても、30年、50年と続けば大きな出費です。また、空き家の管理や草刈り等の維持費も無視できません。
② 近隣トラブルと損害賠償責任
これが最も怖いリスクです。管理を怠り、空き家が倒壊して隣の家を壊してしまったり、伸びきった枝が道路を塞いで事故が起きたりした場合、所有者であるあなたが損害賠償責任を負うことになります。 「遠くに住んでいるから知らなかった」という言い訳は通用しません。
③ 次の世代への「負の連鎖」
あなたが解決せずに放置すると、その土地は将来、あなたのお子さんや孫が引き継ぐことになります。時間が経てば経つほど相続人の数は増え、いざ処分しようと思ったときには「誰の同意が必要か分からない」という「所有者不明土地問題」に発展してしまいます。
【新制度】「相続土地国庫帰属制度」でいらない土地を国に返せる?
「相続放棄がダメなら、もう手段はないの?」 そう思われた方に、ぜひ知っていただきたいのが、2023年(令和5年)から始まった「相続土地国庫帰属制度」です。
これは、相続によって取得した土地を、一定の条件を満たせば「国に引き取ってもらえる」という画期的な制度です。
どんな土地でも引き取ってくれるの?
残念ながら、どんな土地でも良いわけではありません。国も「管理が大変な土地」は受け取りたくないからです。以下のような土地は対象外となります。
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建物が建っている土地(壊して更地にする必要があります)
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担保権(抵当権など)が設定されている土地
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他人の権利(借地権など)がある土地
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境界がはっきりしていない土地
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土壌汚染がある土地
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崖地で管理に過分な費用がかかる土地
手続きには「お金」がかかる
この制度は無料ではありません。「審査手数料」に加えて、承認された場合には10年分の管理費用に相当する「負担金」を納める必要があります。
地目や面積によりますが、原則として20万円程度〜が必要になります。
相続放棄を検討すべき「境界線」はどこにある?
では、改めて「相続放棄(全部いらない)」をすべきかどうか、判断の基準を考えてみましょう。
相続放棄を選んだほうがいいケース
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借金がプラスの財産を上回っているとき: これが最も典型的なケースです。
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財産が「売れない土地」しかないとき: 預金がほとんどなく、管理費だけがかさむ土地しかない場合は、放棄を検討すべきです。
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親戚付き合いに関わりたくないとき: 相続手続きは他の親族との話し合い(遺産分割協議)が必要です。疎遠な親族と関わりたくない場合、放棄することで法的に「最初からいなかった人」になれます。
相続放棄を「待った!」ほうがいいケース
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他に守りたい財産があるとき: 預金や、今住んでいる家など、どうしても引き継ぎたいものがある場合は、放棄はできません。
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「次順位」の相続人に迷惑がかかるとき: あなたが相続放棄をすると、相続権は次の順位(親や兄弟姉妹など)に移ります。事前に連絡をせず放棄すると、親戚間でトラブルになる可能性があります。
「負動産」を処分するための具体的な4つの解決策
相続放棄ができない、あるいは国庫帰属制度も使えない。そんな場合でも、諦めるのはまだ早いです。以下の4つの方法を検討してみましょう。
① 「寄付」という選択肢(自治体や自治会)
土地を市町村などの自治体に寄付する方法です。ただし、自治体も「利用価値のない土地」は受け取ってくれないケースがほとんどです。まずは役所の窓口で「寄付の相談」ができるか確認してみましょう。 意外な盲点として、地元の「隣り合っている土地の所有者」や「自治会」が、避難場所や資材置き場として欲しがっているケースもあります。
② 「マイナス価格」での売却(譲渡)
「1円でもいいから引き取ってほしい」という物件は、最近では不動産ポータルサイト(「空き家バンク」や「無償譲渡物件サイト」など)で見つけることができます。仲介手数料や登記費用をこちらが負担する、いわゆる「手出し」をしてでも手放すという考え方です。
③ 遺産分割協議での「工夫」
もし兄弟がいる場合、遺産分割協議で「土地は引き継がないが、その分、現金も少なめにする」といった調整が可能です。ただし、これは誰かがその土地を引き継いでくれることが前提となります。
④ 「放置」ではなく「管理委託」
どうしても手放せない場合、プロの管理会社に月々数千円で巡回や清掃を依頼することができます。将来的に売れる可能性があるなら、適切に管理して「価値を下げない」ことが重要です。
相続放棄をする際、絶対にやってはいけない「NG行動」
NG1:亡くなった人の預金を使ってしまう
葬儀代など、社会通念上認められる範囲であれば許容されるケースもありますが、基本的には「1円も手を付けない」のが鉄則です。公共料金の支払いなども、自分の財布から出すようにしましょう。
NG2:形見分けで「高価なもの」をもらう
思い出の品(写真や手紙)程度なら問題ありませんが、高級ブランドバッグや貴金属、骨董品などを持ち帰ると「財産の処分」とみなされる恐れがあります。
NG3:土地の売却活動や賃貸の契約をする
「いらないから売ってしまおう」と契約を結んでしまうと、所有者として振る舞ったことになり、放棄は認められなくなります。
後悔しないためのステップ
東京でひとりで暮らしていると、周囲に相談できる人が少なく、ひとりで抱え込みがちです。
後悔しないために、以下の順序で進めてみてください。
ステップ1:財産を「見える化」する
まずは、何がどれくらいあるのかをリストアップしましょう。
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預貯金(銀行名と支店)
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不動産(場所、種類、固定資産税納税通知書を確認)
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借金(ローン、クレジットカード、未払いの税金)
ステップ2:不動産の「本当の価値」を知る
「田舎の土地だから価値がない」と思い込んでいませんか? 意外にも、近隣の農家が広げたがっていたり、太陽光発電の業者が探していたりすることもあります。まずは地元の不動産業者に簡易査定を依頼してみましょう。
ステップ3:親族と「早めに」話し合う
「死後の話なんて……」とためらわれるかもしれませんが、あなたが困っているということは、あなたの子世代も必ず困ることになります。 「あの土地はどうしたいか」「誰が管理できるか」を、元気なうちに一度話し合っておくことが、最大の「生前対策」です。





