「親が元気なうちに相続の話をしたいけれど、切り出しにくい……」
「法律通りに分けるのが一番公平だとは思うけれど、なんだかモヤモヤする」
そんなお悩みを抱えて、私の事務所の扉を叩いてくださる方は少なくありません。
司法書士として相続現場に立ち会わせていただく中で、私はある一つの強い確信を持つようになりました。
それは、「法律的に正しい分け方(正解)」が、必ずしもその「ご家族にとっての幸せ(正解)」とは限らないということです。
相続は、単なる財産の名義変更ではありません。そこには、亡くなった方の想い、残されたご家族のこれまでの人生、そしてこれからの未来が複雑に絡み合っています。
この記事では、なぜ法律の枠組みだけでは解決できない問題があるのか、そして、ご家族にとっての「本当の正解」を見つけるために何が必要なのか、女性司法書士の視点からお話しさせていただきます。
そもそも「法律の正解」=「法定相続分」とは何か?
まず前提として、日本の法律(民法)が定めている「正解」について整理しておきましょう。
遺言書がない場合、誰がどのくらいの割合で財産を受け取る権利があるかは、法律で決まっています。これを「法定相続分」と呼びます。
例えば、お父様が亡くなり、相続人がお母様(配偶者)と子ども2人の場合、お母様が2分の1、お子さんたちがそれぞれ4分の1ずつ、というのが法律上の目安です。
これは非常に平等で、計算もしやすい「正解」です。裁判所も基本的にはこの基準をもとに判断を下します。
しかし、現実はどうでしょうか。
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「長男がずっと同居して、親の介護を一手に引き受けてきた」
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「末っ子は家を建てる時に多額の資金援助をすでに受けている」
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「自宅の土地建物しか財産がなく、きれいに分けようとすると家を売るしかない」
このような個別の事情は、法律の単純な計算式にはなかなか反映されません。
ここに、「法律の正解」と「家族の納得」のズレが生じるのです。
家族の数だけ「正解」は存在する
私が日々ご相談をお受けしていて感じるのは、家族の形は千差万別だということです。
例えば、長年連れ添った奥様に「住む場所に困らないよう、すべての家を相続させたい」と願う夫がいます。
一方で、独立した子供たちは「自分たちも生活が苦しいから、少しでも現金が欲しい」と考えているかもしれません。
ここで無理に「法律通りに分けましょう」と進めてしまうと、住み慣れた家を売却してお金を作らなければならなくなります。奥様は老後の住まいを失い、精神的な支柱を失ってしまうかもしれません。
「公平に分けること」が、必ずしも「誰かを幸せにすること」に直結しない。 これが、相続の難しさであり、私たちが一番大切にしなければならない視点です。
感情の「貸し借り」を無視できない理由
家族の間には、数十年にわたる歴史があります。 「あの時、お兄ちゃんだけ大学に行かせてもらった」 「私は親の面倒を最後まで見たのに、遠方の妹と同じ割合なんて納得いかない」
こうした感情のしこりは、法律の条文では癒せません。むしろ、「法律で決まっているんだから」と無理に理屈を押し通そうとすると、それまで仲の良かった兄弟姉妹の縁が、一瞬で切れてしまうことさえあるのです。
後悔しないために。生前対策を
「法律の正解」ではなく「家族の正解」を選ぶためには、元気なうちに対策を立てることが不可欠です。
これを「生前対策」と呼びます。
自分が亡くなった後、残された家族が遺産を巡って言い争う姿を見たい親御さんはいません。
しかし、何の準備もしていないと、残された側は「法律」という唯一の物差しに頼るしかなくなります。
遺言書は「思いやり」をカタチにする道具
「この家はお母さんが守ってほしい。その代わり、貯金は世話になった長男に。そして次男には、私が大切にしていたこの品と、学費を出してあげられなかった分のお金を渡したい」
このように、自分の意思を明確にしておくことで、子供たちは「お父さん(お母さん)がそう決めたのなら」と、納得することが多いです。
「家族会議」の場を設ける勇気
生前に対策を立てる際、最も大切なのは「話し合い」です。いきなり司法書士のところへ行くのがハードルが高いと感じるなら、まずは茶の間でいいのです。
「将来、この家はどうしようか?」「私はこう思っているんだけど、あなたたちはどう思う?」
こうした会話を、まだみんなが元気で、笑顔で話せるうちに重ねておくこと。それが、最大の相続対策です。





