「私たちは入籍していないけれど、20年も一緒に暮らしているから大丈夫よね?」
「もし夫(パートナー)に万が一のことがあったら、この家には住み続けられないの?」
「籍を入れていないと、1円も相続できないって本当?」
長年、夫婦同然の生活を送ってきた「内縁」という関係。
お互いを支え合い、苦楽を共にしてきた絆の深さは、法律上の夫婦と何ら変わりはありません。
しかし、日本の相続制度においては、この「入籍しているかどうか」という一点が、極めて大きな壁として立ちはだかります。
結論から申し上げます。残念ながら、現行の日本の法律では、内縁の妻(夫)に相続権は一切認められていません。
法律上の相続権はなくても、生前に正しく準備をしておくことで、大切なパートナーに財産を遺し、その後の生活を守る方法は確実に存在します。
なぜ「内縁の妻」には相続権が認められないのでしょうか?
まず、法律の現状を正しく理解しましょう。日本の民法では、相続ができる「配偶者」を以下のように定義しています。
法律上の「配偶者」の壁
相続権を持つ配偶者とは、「戸籍上の婚姻届けを提出している人」に限られます。
どれほど長く一緒に暮らし、周りから夫婦として認められ、経済的にも助け合っていたとしても、戸籍に記載がなければ、法律上は「他人」として扱われてしまうのです。
親族が優先される現実
あなたがどれだけ献身的に尽くしていたとしても、パートナーが亡くなった瞬間に、相続権はパートナーの「子供」「親」「兄弟姉妹」へと移ります。
もしパートナーに子供がいれば子供が、子供がいなければ高齢の両親が、両親もいなければ会ったこともないような兄弟姉妹や甥・姪が優先的な相続人となります。あなたは、その遺産分割の話し合い(遺産分割協議)に参加する権利すら与えられないのが現実です。
内縁の妻が直面する「3つの深刻なリスク」
相続権がないことで、具体的にどのような困りごとが起きるのでしょうか。代表的な3つのリスクを見てみましょう。
リスク①:今住んでいる家から出て行かなければならない
もっとも切実なのが住まいの問題です。自宅がパートナーの名義だった場合、その家は「相続人(子供や兄弟など)」のものになります。 もし相続人との仲が良ければ「そのまま住んでいいよ」と言ってもらえるかもしれませんが、権利を主張されれば、住み慣れた家を明け渡さなければならなくなる可能性があります。
リスク②:預貯金が1円も引き出せない
パートナー名義の銀行口座は、亡くなったことが銀行に伝わると凍結されます。相続権がないあなたは、葬儀費用の支払いのためであっても、その口座からお金を下ろすことができません。生活費をパートナーの口座に頼っていた場合、明日からの生活資金に即座に困ることになります。
リスク③:遺族年金や退職金が受け取れない場合がある
遺族年金については、実態調査によって内縁関係が認められれば受給できる可能性がありますが、その証明(家計が同一であったことの立証など)には非常に手間がかかります。また、勤務先の退職金規定に「内縁の配偶者」が含まれていない場合、それを受け取ることも難しくなります。
【解決策①】最も確実な「遺言書」の作成
内縁のパートナーに財産を遺すための、最も一般的で強力な方法が「遺言書」です。
「遺贈(いぞう)」という仕組み
遺言書の中に「内縁の妻である〇〇に、すべての財産を遺贈する」と書き記しておくことで、相続人以外の人にも財産を渡すことができます。
これを「遺贈」と呼びます。
遺言書を作る際の2つの注意点
-
「公正証書遺言」にする: 自分で書く「自筆証書遺言」は、書き方を間違えると無効になるリスクがあります。内縁関係の場合、親族から遺言の有効性を疑われるトラブルが起きやすいため、公証役場で公証人に作成してもらう「公正証書遺言」にする方が安心だと考えています。
-
「遺留分(いりゅうぶん)」に配慮する: パートナーに子供や親がいる場合、彼らには法律で守られた「最低限の取り分(遺留分)」があります。すべてを内縁の妻に遺すと書いても、親族から「自分たちの分を返せ」と言われる(遺留分侵害額請求)可能性があります。あらかじめ遺留分を考慮した配分にするか、現金を多めに遺しておくなどの工夫が必要です。
【解決策②】「死因贈与契約」を結んでおく
「約束」という形の安心感
遺言はパートナーが一人で書くものですが、死因贈与は「私が死んだらこの家をあげます」「はい、もらいます」という二人での契約です。
内縁のパートナー同士でこの契約を結び、書面に残しておくことで、お互いの意思を再確認し、将来への不安を分かち合うことができます。
不動産の「仮登記」で守りを固める
死因贈与の最大のメリットは、不動産に「仮登記」ができることです。「将来、この家をもらう予約をしています」という印を登記簿につけておくことで、パートナーの親族が勝手に家を売却したりすることを防ぐ強力な抑止力になります。
【解決策③】「特別縁故者」としての財産分与(最終手段)
もし、遺言も死因贈与も準備していなかった場合に、唯一残された道が「特別縁故者(とくべつえんこしゃ)」の制度です。
相続人が誰もいない場合のみ使える
この制度が使えるのは、亡くなったパートナーに「子供も、親も、兄弟も、甥・姪も、誰も相続人がいない」という極めて限定的なケースだけです。
裁判所への申し立て
パートナーと生計を同じくし、療養看護に努めた実績を裁判所に認めてもらうことで、国庫に納められるはずの遺産の一部(または全部)を受け取れる可能性があります。 ただし、これには非常に高度な法的手続きと、多大な時間(1年以上かかることも)が必要です。最初からこれを頼りにするのではなく、あくまで「万が一の救済策」と考えておくべきです。
住まいの権利を守る「配偶者居住権」は使えるの?
最近、相続法が改正されて話題になった「配偶者居住権(亡くなった後も、その家に無償で住み続けられる権利)」ですが、ここにも大きな落とし穴があります。
内縁の妻には適用されません
残念ながら、この便利な配偶者居住権も「法律上の配偶者」にしか認められていません。
内縁関係において住まいを守るには、やはり「遺言で家を遺す」か、「生前に持分を贈与する(または死因贈与)」といった個別の対策が不可欠です。





