大切なご家族が亡くなった後、遺品を整理していたら遺言書が見つかった。
しかし、後日また別の場所から「もう一通の遺言書」が出てきた……。
このような状況に直面すると、多くの方が「どちらが正しいの?」「先に書き換えた方が有効なの?」「家族で揉めてしまうのではないか」と大きな不安を感じてしまいます。
複数の遺言書がある場合、原則として「日付が新しいもの」が優先されます。
しかし、内容が重複していなかったり、形式に不備があったりする場合など、単純に日付だけで判断できないケースも少なくありません。
この記事では、複数の遺言書が見つかった際の法的な優先順位や、手続きの進め方について解説します。
遺言書が2枚以上出てきた。まず確認すべき「日付」のルール
複数の遺言書が見つかったとき、法律(民法)では明確なルールが定められています。
それぞれの遺言書に記載されている「日付」を確認しましょう。
原則は「新しい日付」の遺言書が優先される
遺言書は、亡くなった方の「最終的な意思」を尊重するためのものです。
そのため、内容が矛盾している場合は、「より亡くなる直前に書かれたもの(日付が新しいもの)」が有効となります。
例えば、以下の2枚が出てきた場合を考えてみましょう。
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遺言書A(2020年作成):「自宅は長男に相続させる」
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遺言書B(2023年作成):「自宅は長女に相続させる」
この場合、新しい日付である「遺言書B」の内容が優先され、自宅は長女が相続することになります。
遺言書を書いた方が「やっぱり考えが変わった」と思って書き直したとみなされるからです。
前の遺言書がすべて無効になるわけではない
ここが間違いやすいポイントですが、新しい遺言書が出てきたからといって、古い遺言書のすべてがゴミ箱行きになるわけではありません。
無効になるのは、あくまで「新しい遺言書の内容と食い違っている部分」だけです。
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遺言書A:「自宅は長男に、預金は長女に相続させる」
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遺言書B:「預金は次男に相続させる」
この場合、預金については新しい「遺言書B」が優先されますが、自宅に関する指定は「遺言書A」にしか書いていないため、自宅については「遺言書A」の内容がそのまま有効となります。
日付がない遺言書はどうなる?
自筆で書く「自筆証書遺言」の場合、日付の記載は必須条件です。
「〇月吉日」といった曖昧な書き方や、日付の記載がないものは、残念ながら遺言書としての法的効力が認められません。
もし「日付のある古い遺言」と「日付のない新しい(と思われる)遺言」が出てきたら、法的には日付のある古い方のみが有効として扱われることになります。
遺言書の種類によって優先順位は変わる?
遺言書には主に「自筆証書遺言(自分で書くもの)」と「公正証書遺言(公証役場で作るもの)」の2種類がありますが、どちらが強いといった「種類の上下」はありません。
公正証書遺言よりも、後の自筆遺言が勝つこともある
よくある誤解が、「公証役場で作った立派な書類(公正証書遺言)があるから、後から自分で書いたメモのような遺言(自筆証書遺言)は無効だろう」という思い込みです。
実際には、種類に関係なく「日付」が優先されます。 たとえ数年前に費用をかけて公正証書遺言を作っていたとしても、亡くなる数日前に本人が自筆で「やっぱり全財産を妻に譲る」と書き残し、それが法的な要件を満たしていれば、そちらが優先されるのです。
どちらが有効か争いになりやすいケース
種類による優劣がないからこそ、以下のようなケースではトラブルに発展しやすいため注意が必要です。
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認知症の疑い: 新しい遺言書を書いた当時、本人の判断能力がしっかりしていたかどうか。
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偽造の疑い: 誰かが無理やり書かせたのではないか、筆跡が違うのではないか。
これらは法的な有効性をめぐって裁判に発展することもあるため、複数の遺言書の内容があまりにかけ離れている場合は、早めに専門家へ相談することをお勧めします。
新しい遺言書が見つかった際、絶対にしてはいけないこと
自分の判断で捨てる・隠す
「古い遺言書の方が自分には有利だから、新しい方はなかったことにしよう」と隠したり破り捨てたりする行為は、「相続欠格(そうぞくけっかく)」という非常に重い罰の対象になります。
相続欠格になると、その人は相続人としての権利を一切失います。
たとえ子供であっても、一円も相続できなくなってしまうのです。複数の遺言書は、必ずすべて保管し、裁判所や専門家に提出してください。
勝手に開封する(自筆証書遺言の場合)
封印されている自筆証書遺言を見つけた場合、その場で開けてはいけません。家庭裁判所で「検認(けんにん)」という手続きを行う必要があります。
勝手に開けてしまったからといって遺言が無効になるわけではありませんが、5万円以下の過料(罰金のようなもの)を科される可能性があるほか、他の相続人から「内容を改ざんしたのではないか」と疑われる原因になります。
複数の遺言書を整理し、手続きを進めるステップ
では、実際に複数の遺言書が見つかった場合、どのような手順で進めればよいのでしょうか。
スムーズに手続きを終えるための3つのステップをまとめました。
ステップ1:すべての遺言書の「検認」を行う
公証役場で作成した「公正証書遺言」や、法務局で保管されていた遺言書以外は、すべて家庭裁判所での検認が必要です。 複数の遺言書がある場合は、それらをすべて裁判所に持っていき、現状を確認してもらいます。
これにより、「確かにこの日に、この内容の遺言書が存在した」という公的な証明が得られます。
ステップ2:内容の矛盾をチェックする
裁判所での手続きが終わったら、専門家(司法書士など)と一緒に内容を精査します。
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項目A:古い遺言にしかない内容
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項目B:新しい遺言にしかない内容
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項目C:両方に書いてあり、内容が矛盾している内容
項目Cについては、新しい遺言書の内容に従います。項目AとBについては、それぞれが有効として扱われます。
ステップ3:遺産分割協議の検討
もし遺言書が複数あり、内容が複雑に絡み合って解釈が難しい場合や、一部の財産について記載が漏れている場合は、相続人全員で話し合う「遺産分割協議」が必要になることもあります。
トラブルを未然に防ぐ。「書き直し」をするときの注意点
もしこの記事を読んでいる方が、「以前書いた遺言書を書き直したい」と考えているのであれば、残された家族が困らないように以下のポイントを意識してください。
「以前の遺言を撤回する」と明記する
新しい遺言書を書く際、冒頭に「私は、〇年〇月〇日付で作成した遺言をすべて撤回し、以下の通り遺言する」と一行書き加えるだけで、混乱を劇的に減らすことができます。
これにより、古い遺言書がどこから出てきたとしても、それが無効であることが一目で分かります。
古い遺言書は破棄する(可能であれば)
公正証書遺言の場合は原本が公証役場に残るため難しいですが、自筆の遺言書であれば、新しいものを書いたタイミングで古いものは破棄するのが一番確実です。 ただし、一部の内容だけを残したい場合は、前述の通り複雑になるため、必ず専門家のリーガルチェックを受けることをお勧めします。
家族に「書き直したこと」を伝えておく
遺言書の内容を詳しく伝える必要はありません。
「最新のものは法務局に預けてあるよ」「〇〇さんに預けてあるから、何かあったら聞いてね」と一言伝えておくだけで、家族が古い遺言書に振り回されるリスクを減らせます。
遺言書が見つかった後のよくあるお悩み
ここでは、複数の遺言書に関連して、ご相談者様からよくいただく不安についてお答えします。
「内容が矛盾していない場合」はどうなりますか?
例えば、1通目に「不動産の件」、2通目に「預貯金の件」が書いてあり、日付が異なっていたとしても内容に食い違いがない場合、これらは「2通あわせて1つの遺言」として扱われます。両方の内容を実現させる必要があります。
「封筒に入っていない遺言書」は無効ですか?
いいえ、封筒に入っていなくても、印鑑が押されていなかったとしても(※自筆証書遺言では押印必須ですが、条件によります)、内容がしっかりしていれば有効になる可能性があります。
ただし、形式が不完全な遺言書は「単なるメモ」と判断されるリスクが高いため、慎重な判断が必要です。





