「亡くなった父(または母)が、実は幼少期に特別養子縁組で他家の養子になっていたことがわかった」
戸籍を遡って調べていく中で、こうした事実に直面し、驚きと戸惑いを感じていらっしゃる方は少なくありません。
ご自身の大切なルーツに触れる驚きとともに、次に湧いてくるのは「自分は誰の相続人になるのか?」「本来の祖父母の遺産を受け取る権利はあるのか?」という切実な疑問ではないでしょうか。
相続の手続きは、ただでさえ複雑で神経を使うものです。
それが「特別養子縁組」という特殊な事情が絡むとなれば、なおさら「どう動けばいいのかわからない」と不安になるのも無理はありません。
この記事では、司法書士としての視点から、特別養子縁組が相続にどのような影響を与えるのか、そして、あなたが今後どのように手続きを進めていけばよいのかを解説していきます。
特別養子縁組とは?普通の養子縁組(普通養子縁組)と何が違うの?
まずは、前提となる「特別養子縁組」の仕組みについて正しく理解しましょう。
ここを曖昧にしてしまうと、相続の判断を大きく誤ってしまう可能性があるからです。
日本の法律(民法)には、大きく分けて2つの養子縁組制度があります。
1. 普通養子縁組(ふつうようしえんぐみ)
一般的によく知られている養子縁組です。最大の特徴は、「生みの親との親子関係が残る」という点です。
養子に行っても、生みの親の子供としての権利も持ち続けるため、養親・実親の両方の相続人になります。
特別養子縁組(とくべつようしえんぐみ)
今回のテーマであるこちらが、非常に特殊な制度です。
この制度は、主に子供の福祉(健やかな成長)を守るために作られました。 最大の特徴は、「実親(生みの親)との法的な親子関係を完全に断ち切る」という点です。
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戸籍上の記載: 「養子」ではなく、見た目上は実子に近い形で記載されることが多い(以前は長男・長女といった表記がなされていました)。
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家庭裁判所の関与: 成立には必ず家庭裁判所の審判が必要です。
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関係の遮断: 成立した瞬間から、実の親、実の兄弟姉妹、実の祖父母との法的な親族関係はすべて消滅します。
つまり、亡くなった親御さんが「特別養子縁組」をしていた場合、その時点から法的には「生みの親の家とは無関係な人」になっているのです。
私は「生みの祖父母」の遺産を相続できるの?
あなたの親御さんが「特別養子縁組」で他家に入っていた場合、あなたは原則として「生みの祖父母(親にとっての実親)」の遺産を相続することはできません。
なぜそうなるのか、その理由は「代襲相続(だいしゅうそうぞく)」という仕組みにあります。
代襲相続(だいしゅうそうぞく)が起きない理由
通常、親が先に亡くなっている場合、その子供(孫であるあなた)が親の代わりに相続権を引き継ぎます。これを代襲相続といいます。
しかし、代襲相続が発生するためには、「亡くなった親自身が、その親(祖父母)の相続人であること」が大前提です。 特別養子縁組が成立すると、親と生みの親との間の法的な親子関係は切れています。
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親は、生みの親の相続人ではない。
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相続人でない人の権利を、**あなた(子供)**が引き継ぐことはできない。
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結果として、あなたは生みの祖父母の遺産を相続できない。
これが法律上の厳しい現実です。
ただし、「養親(育ての親)側」の相続については、当然に権利がありますので、その点はご安心ください。
【ケース別】相続権はどうなる?
いくつかの具体的なパターンに当てはめて、誰が誰を相続するのかを見ていきましょう。
パターンA:親が特別養子縁組をした「後」に、あなたが生まれた場合
このケースが最も一般的です。 あなたの親は、法的に「養親(育ての親)の家の子」として人生を歩んでいます。
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生みの祖父母が亡くなった時: あなたに相続権はありません。
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養親(育ての祖父母)が亡くなった時: あなたは親を飛び越えて(代襲して)、または親が存命なら将来的に、養親側の遺産を相続する権利があります。
パターンB:親が特別養子縁組をする「前」に、すでにあなたが生まれていた場合
非常に稀なケースですが、成人後の特別養子縁組は原則認められていないため(2020年の法改正後も原則15歳未満)、あまり起こり得ない状況です。
しかし、もし「親の特別養子縁組成立時、すでに子供(あなた)が存在していた」場合でも、親と実親の関係が切れることに伴い、孫であるあなたと実親の関係も基本的には切れると考えられます。
パターンC:親が「普通養子縁組」だった場合(比較)
もし、親が「普通養子縁組」であれば、話は180度変わります。
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生みの祖父母が亡くなった際、あなたは代襲相続人になれます。
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育ての祖父母(養親)が亡くなった際も、あなたは代襲相続人になれます。 いわば「両方の家の権利」を持つことになります。
今回のケースで最も重要なのは、「本当に特別養子縁組だったのか?」を戸籍で確実に確認することです。
なぜ「特別養子縁組」は実親との関係を切るのか?その背景にある想い
法律がここまで厳しく「関係を遮断する」と決めているのには、理由があります。
特別養子縁組は、虐待や経済的困窮など、様々な事情で生みの親の元で暮らせない子供に対し、温かい家庭を提供することを目的としています。
「今日からはこの家の本当の子供として、安心して生きていきなさい」 そうした法的な盾を作ることで、生みの親が後から不当に干渉してくることを防ぎ、子供が新しい家庭に完全に根を下ろせるように配慮されているのです。
相続権がなくなるということは、一見すると不利益に見えるかもしれません。
しかし、それは同時に「生みの親側の借金を引き継がなくて済む」「生みの親側の扶養義務(面倒を見る義務)を負わなくて済む」という守りの側面も持っています。
戸籍の読み解き方は?「特別養子縁組」を見分ける重要ポイント
親が特別養子縁組だったかどうかを判断するには、戸籍謄本の「ある箇所」をチェックする必要があります。
1. 昭和62年(1987年)以前は存在しなかった
特別養子縁組の制度が始まったのは昭和63年1月からです。それ以前に組まれた縁組は、すべて「普通養子縁組」です。
2. 「民法817条の2による裁判確定」という文字
戸籍の事項欄を確認してください。特別養子縁組の場合、根拠となる法律の条文(民法817条の2)が記載されていることがよくあります。
3. 両親の氏名欄
普通養子縁組では「養父」「養母」とハッキリ書かれます。
一方、特別養子縁組では、戸籍を新しく作った際に「父」「母」と実の親のように記載されることがあります。
これを見抜くには、「親の出生から亡くなるまでのすべての連続した戸籍」を遡って取得し、いつ、どのタイミングでその戸籍に記載されたのかを突き止める必要があります。
4. 養子縁組の離縁(解消)はできる?
普通養子縁組は合意があれば解消(離縁)できますが、特別養子縁組は原則として解消できません。
これも、子供の安定した生活を守るための強力なルールです。
もし「相続させたい」という遺言があったら?
「実の祖父母が、養子に出した子供(あなたの親)や、その孫(あなた)のことをずっと気にかけていて、遺産を譲りたいと思っていた」
このようなケースでは、法律上の相続権がなくても、遺産を受け取れる方法があります。それが「遺贈(いぞう)」です。
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遺言書がある場合: 実の祖父母が遺言書で「孫の〇〇に遺産を遺す」と書いていれば、特別養子縁組で関係が切れていても、受遺者として遺産を受け取れます。
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特別縁故者(とくべつえんこしゃ): 万が一、実の祖父母に他に誰も相続人がおらず、あなたが身の回りの世話を献身的にしていたなどの事情があれば、裁判所に申し立てて遺産を分けてもらえる可能性があります(ハードルは非常に高いです)。
ただし、これらはあくまで「あちら側(実親側)」が準備をしていた場合の話です。法的な権利(遺留分など)を主張して無理やり奪うことはできないという点に注意してください。
「知らずに遺産分割協議に参加してしまった」場合のリスク
もし、実の祖父母の家で相続が発生し、他の親族も詳しく事情を知らないまま、「あそこの孫(あなた)も呼ぼう」と遺産分割協議に誘われたらどうなるでしょうか。
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協議は無効になる: そもそも相続権がない人が参加してハンコを押した遺産分割協議書は、法的に無効です。
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後から返還を求められる: もし遺産を受け取ってしまった後で、他の正当な相続人が「あの人は特別養子だから相続権がないはずだ」と気づいた場合、受け取ったお金を返さなければならなくなります。
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親族トラブルの火種: 「知っていて隠していたのではないか」と疑われるなど、感情的なしこりを残すことになります。





